2013.8.11, 14, 17: Rossini "Guillaume Tell" ウィリアム・テル

序曲で泣いた。それは静かに始まり、いったん盛り上がった後、また穏やかに流れて、唐突にあの有名なラッパから一気になだれ込む。これからいったいどんな物語が始まるの?悲劇なのか喜劇なのか。

幕は斜めに下半分が真っ赤に染められ、握り拳が描いてある。それがあがると、多数の村人が跪いて床をふいている。緑や白の軍服の男たちが監視している。

舞台は奥から手前に二枚の壁が置かれて、上から見ると三角形になっている。下手の壁には上に細長い窓があり、軍服の男達が青いドレスの金髪女を弄んでいる。下の部分は扉で、開くと小舞台があり、白い正装の男女数人が椅子に座って村人を眺めて談笑している。ハプスブルグ家の人々か(中央にいるのが王女マティルデで隣のヒゲが悪代官ゲスレルだと二回目にわかった)。上手にも細長い舞台があり、ツェルマット山を描いた数枚のパネルが出てきて並べられる。上手の上には何か文字が書いてるが意味不明。

村人たちの中で、巨体のウィリアム・テルと妻エドヴィージェ、息子ジェミィが立って歌う。妻はいいが、後の二人は声量なくて存在感が足りない。物思いに沈んでいるからか。

舞台中央には空色の船が吊されている。青いドレスの金髪女は下に降りてきて、白い軍服の男と戯れたのち、その船にのる。青いジャンパーを着た村人も船に乗り込んで漕ぐ。女と手を取り合ってたがどういう関係?青い村人はテノールで、初日は思いっきり失敗してこの人がFlorezの代役だったらどうしようかと思ったが、二回目からはいちおは歌えるようになっていた。

空中にあがった船を、ウィリアム・テルが引いていたが途中で手を離し、妻と息子があわてて綱をとってウィリアム・テルに渡していた。何の意味だろう。船は降りて女は白い軍服の男の元へ帰り、村人はエドヴィージェに迎えられる。

ハプスブルグ家の人々がずらずら奥から出てきて下手にはける。それとともに船の女も他の軍服も退場。村人は立ち上がり、床をふいていた雑巾を投げ捨てる。

上手からもう一人の緑の軍服が登場。歌えばわかる我らがJuan Diego Florez、村の長老の息子アルノルド。この緑の軍服、足の内側が黒くなっていて、足が長く見えるようなFlorez仕様のデザインか?本人、背が低いことを気にしているので。

アルノルドは軍に加わっていても、エドヴィージェには優しく迎えられるが、父である長老メルクタールは違う。息子が結婚しないで王女マティルデと恋愛してるから?

村人たちとともに去り、テル一家三人とアルノルドが残る。テル一家三人は下手の小舞台で一家団欒。アルノルドは一人、でてきた村の子供たちにも恐れられる。アルノルドの歌は最初から難しいのに完璧で、泣いた。

音楽が一気に華やかになり、靴で拍手をしている男たちを先頭に、結婚式を行う三組6人が、他の人に肩車をされて行進してくる。長老が結婚式を行い、女たちは下手の上の窓に並んでエドヴィージェが歌う。

3組の男女のダンス。数人の男のみのダンス。コーラスはかっこいいが、長い。。。音楽も序曲と同じメロディでなんかテキトー。一回目も二回目も眠くなって、三回目でようやく全部見られた。

続いて弓矢の競技。緑の軍服の頭なし人形が吊され、数人が弓を射る。最後に射ったジェミィが大当たりで、パンと音がして紐が切れ、人形が床に落ちた。村人が蹴って脇にはける。

楽しそうな雰囲気も一転、扉を少し開けて村の男(羊飼い)とその娘が逃げ込んでくる。男は、娘を誘拐しようとしたゲスレルの兵隊を殺してしまったと。誰もが尻込みする中、ウィリアム・テルが船を漕いで男を逃がす。実際は、綱をひくと船が宙に浮いて天井に消えた。船の移動を縦方向に表現するのがうまい。

緑の軍服たちがやってきて、犯罪者を逃がしたのは誰かと。緑の軍服で歌うのがもう一人いて、バリトンで、えらい下手。ウィリアム・テルがいないので、長老がつかまり、リンチされて、吊されて、幕!音楽も間がなくてすごいテンポよかった。

休憩のち2幕、幕があがると馬。十数頭のリアルな馬の人形が並んでいる。白いドレスのマティルデが出てきて、白い馬に乗る。緑のアルノルドも出てきて、逢い引き。馬を降りて、キスしようとしたり突き放したり、いろいろ歌ってたが要するに、あんた身分が低いんだから軍で活躍しなさいと。キスされてへろーんと床に転がるFlorezのベタなギャクを完全スルーして自分の歌にしか集中してないMaria Rebeka。なんか反応してくれないと観客だって笑えないじゃないか。アルノルドも別の馬にまたがり、マティルデに渡された剣を突き上げて高らかに合唱。

マティルデが去るとウィリアム・テルと赤いスカーフを首に巻いた村人がやってきて、父メルクタールが殺されたことを伝える。悲嘆にくれるアルノルドに、一緒に戦おうと。

天井からなぜか照明が降りてくる。なんだろうと思ってたら、光を下から当てて「夜更け」を表現したのか。

村人もぞろぞろ出てくる。右手の細長い舞台を覆う透明なアクリル板に赤いペンキでなんか書く。村人がやってきた三つの州か?村人はみな赤い布を手に巻いていて、アルノルドにも手渡す。アルノルドも手に巻いて拳を握る。これが幕に描いてあったのか!このシーンは熱かった。これがこの物語のピークなのだろうと思った。

休憩のち3幕、幕があがると敗北の後が。壁には大きな血痕、赤いペンキの文字は一部しか残ってないし、中央には首を切られた白馬。上手の舞台にちょこんと座ってうなだれるアルノルド。黄色いドレスに着替えたマティルデに別れを告げる。マティルデはさっきとは変わって下手に出るが、アルノルドの心を変えることはできず、別れの合唱。アルノルドはずっと無表情だったが、マティルデが走り去ると、悔しそうに照明を叩いて消す。

また音楽が変わり、上手の壁が開いて、白いソファーやらテーブルが出される。馬と照明は移動される。村人たちもぞろぞろ出てきて小さくなって背後に並ぶ。ハプスブルグ家の人々が、一人の村人を踏み台にして上手の小舞台から降りる。先頭は黒い正装に着替えた悪代官ゲスレル。白や緑の軍服、黒い服の家来もいる。白い軍服にはゲスレルと対等の人、緑の軍服にはさっきの歌の下手な奴もいた。下手の上の窓にも緑の軍服がずらり、下を眺めている。そこから黄と黒の大きな旗が垂れ下がる。女たちは金や黄色の豪華なドレス。ソファーに座ったゲスレルを囲んで、酒を片手に戯れる。

ゲスレルは帽子を取り、村人を一人一人連れてきては敬礼させる。帽子を床まで下げたり蹴飛ばしたりしながら、村人が顔を近づけるのをバカにするゲーム。

村の踊り子達が連れてこられて、操り人形のダンス。長い。。。コーラスさえテキトーになってきた。軍人やハプスブルグ家の人々も踊りに参加する。ゲスレルも踊ってた!歌手なのにー。そのうちエスカレートして、軍人たちが女の踊り子を蹴り出し、それをかばった男の踊り子を殴る蹴る。

これも一回目は眠くなって二回目でようやく完走した。三回目は下手寄りに座っていたので、ダンスの最終に緑の軍服が金ドレスの女を壁の奥に無理矢理連れ込んで、出てきた後にネックレスを与えると、女は人が変わったように男たちを誘惑しまくる、というドラマが展開されていることに気づいてしまい、ダンスに目が行かなかった。金ドレスの女は冒頭の青ドレスの女と同じなんだが。どういう意味?元はいたいけな村娘なのか?

ウィリアム・テルとジェミィが連れ出されてソファーに座らされる。敬礼をしなかったらしい。ゲスレルはジェミィの頭の上に置いたリンゴを弓で射落とせば許してやろうと言う。合図をすると家来がソファーを動かして二人の位置を決める。

最初は断ったウィリアム・テルだが、ジェミィにも説得され、おそれながらも弓を射る。初日はあらすじを読んでなかったので、どうなるか超ドキドキした。リンゴの話はなんとなく聞いたことがあったが結末を知らなかったので。

ピンスポットがジェミィの顔を照らす。照明凝ってるなあ。弓は命中、リンゴがバンと爆発。喜ぶジェミィと、床に突っ伏すウィリアム・テル。二人が抱き合ったところで、ゲスレルの家来(軍人ではない)がソファーに弓がもう一本隠してあるのを見つける。それをゲスレルに渡すと、ニヤリと笑って、ウィリアム・テルに問いただす。歓喜で抱き合ったまま、失敗したらお前を射るつもりだったと答えてしまい、タイホー。手錠をかけられる。

何やってるのと王女マティルデが通りかかり、子供=ジェミィを引き渡せと。ゲスレルは緑の軍服に耳打ちされて、しぶしぶ承知する。でもウィリアム・テルは水牢に閉じ込めることになってしまった。つか、マティルデ来るの遅いよ!

ウィリアム・テルが手錠をかけたまま軍人をなぎ払い、村人が拳をあげて決起するが、ゲスレルは不適に高らかに笑う。下手の上の窓の軍隊は銃を構えている。

小休止。幕が降りたが休憩なしで4幕。暗い旋律から激動を予感させる音楽が始まる。この最後の幕の始まりが私は一番好きだ。

幕があがると、大きなスクリーンと映写機、盛り土の上にまたちょこんと座ってうなだれるアルノルド。静かに歌い出すと音楽は盛り上がるが、アルノルドは映写機のスイッチを入れて椅子に座り、落ち着いたまま高音がのびっぱなしのアリア。その心は圧制者への怒りらしいが、悲しみ嘆きの方が感じられる。映写機からは農村の男と子供、死んだ父を思っているのか、捕らわれたウィリアム・テルを思っているのか。

アリアが終わると決起した村人が出てきて合唱。アルノルドはウィリアム・テルの救出と復讐を誓う、らしい。難しいアリア終えた直後なのに、合唱を間の手にまだまだ歌う。究極のテノールつくっちゃったね、ロッシーニ先生!

ここでみなが思い出すのは、序曲の運動会の行進曲。メロディは全然違うけど、村人の先頭に立って城を落としに行くちょっとお茶目なアルノルドだ。

舞台かわって、上手の小舞台には女たちが背を向けて立ち並ぶ。ウィリアム・テルの妻エドヴィージェがナイフで何かしようとして他の女に止められる。そこへマティルデがジェミィを連れてやってきた。三人で食卓を囲んで合唱。ワーグナーのノルンかラインの乙女たちみたいだ!(こっちの方が全然先だけど)エドヴィージェはパンを切り、マティルデは煙草をふかす。

下手の小舞台に稲妻が何度か光り、嵐がくると。上手の小舞台には波の映像が映し出される。たしか羊飼いだった男がやってきて、戦いの報告をする。ジェミィが食卓テーブルに油をまいて火をつける。のろしか!波の映像には銃や旗をもった男たちの陰が加わり、ウィリアム・テルが帰ってきた。自分で船を漕いできたらしい。妻と抱き合ったのち、ジェミィから弓を受け取る。

上手の小舞台にゲスレルが現れる。船に取り残されたらしい。ウィリアム・テルが弓を射ると豪快に倒れて、置いてあった船に落ち、目を開けたままずっと死体になっていた。歌はまあまあだが、芸達者だ。

上手の小舞台に城を落としたアルノルドが村人を引き連れてやってくる。持って帰ってきた黄と黒の旗を船に捨てる。これがうまくゲスレルにかかると目を閉じられるのになあ。

ドレスから村人の格好に着替えたマティルデがアルノルドを迎え入れる。ついさっきまで黄色のドレスで煙草くゆらせてたくせにー。

この二人とテル一家を中心に、ハープの旋律をバックに、みなが喜ぶことろで、天井ががばっと開いて真っ赤に階段が降りてきた!!!階段は床にまで開き、最後の音楽が終わるまで、ジェミィが上っていった。。。ラインの黄金か!(こっちの方が全然先だけど)

 * * *

とりあえずワーグナーがロッシーニをパクったということがわかった(爆)

序曲は有名すぎるくらい有名だが、作品自体は難しすぎて滅多に上演されない。こんなの書いたらもうオペラ作るのやめるのわかる気がする。私も、この作品をみられたらもうオペラ見るのやめてもいいかと思ってたが。ロッシーニ先生は偉大すぎて、全作品みて、どうしてこの作品でやめたのかがわかるまでは、やめられないや。

この作品は、次いつ見られるかわからないので、今回はどうしても三回みたいと思って予定を組んだ。チケットは二回分しか取れなかったのだが、リターンがあると信じて。でも本当に楽しめたのは二回かな。

初日は、珍しくFlorezも固くなってた。4幕の歌の終わりで間違えたし。合唱といまいち合わなくて、最後の延ばすところが明らかに途中で切れてしまった。珍しい、こんな失敗は初めて見た。他の歌手もみんなすごい緊張してて、最後の階段上るのもかなりヒヤヒヤだった。

二回目は一転、演技する余裕たっぷりで、4幕もぴったり決まった。CDだともう一拍くらい延ばしてるんだけど。さすがに演技する余裕はなく、映像みてて状態だったが。手で輪っかをつくるいつものポーズ連発でリサイタルか!とちょっと心の中でつっこんだ。他の歌手も二回目の方がよかった。

三回目は、ちょっと調子わるかったのか、単に力が入ってたのか、1幕から顔ゆがめて歌ってた。それがかえって鬼気迫るものがあって、圧倒的に完璧な出来で、昨日は中国人テノールにうつつをぬかしててごめんなさい、次元が違うや。もう十分うまいのに、より完璧をめざして集中してくれるって、ありがたくて泣いた。ところが2幕では歌いながら馬に乗るところで足をすべらせて格好良く決まらず、客席からちょっと笑いが起きた。その上、最後に突き上げるはずの手に取った刀が、鞘しかなくて、馬に乗った後にソプラノが慌てて本身を渡してた。それで無事に刀は突き上げられてエンディングの最高潮に盛り上がる歌も決まったのだが、Florezは顔わらっちゃってるし。その後、すごい大拍手だったのだが、笑いが止まらない感じだった。4幕は二回目と同じ。

最高の作品なのに最後は泣けない。敗因は二つ。ウィリアム・テルが力不足で、デブのくせに声量ないし。他の村人のバリトンの方がうまかったくらい。4幕の前半はこいつががんばらないと。。。体型だけで選ばれたのではなかろうか。と思ったら、去年のアリプランドは悪くなかった。再演では体型にこだわらず演技派のバリトンを配置してほしい。Keenlyside歌わないかなあ。

マティルデは初見。高音の声量はあるんだが、コロラトゥーラがいい加減に滑る。三日目はえらい調子よくなったのか声量がありすぎて、重唱も合唱もあしゃしない。感情表現も全くなし、演技しない、表情かえない。大嫌い。なのに声量だけで大喝采くらってた。みんな何を聞いているんだ。再演ではぜひ別キャストに、Olgaちゃんに歌ってほしー。

指揮はMichele Mariotti、去年の「Matilde Di Shabran」と同じ。ROHでも「湖上の美人」振ってた。いつもいい。二回目は端の方の席だったので、序曲の盛り上がるところで顔真っ赤にして振ってる横顔がよく見えて、お、割といい男じゃんと思って序曲に集中できなかった。さすがOlgaちゃんの旦那。

演出はGraham Vick、ROHの「マイスタージンガー」、あまり好きじゃなかったのだが。今回も、ハプスブルグ家を残忍に表現しすぎだし(二回目は4幕のダンスで思いっきりブーきてた!)、馬とかも微妙なのだが、最後に天井が開いたので全部ぶっとんだ。カタルシスですな。舞台衣装のPaul Brown()も振付のRon Howellもイギリス系。

STAFF & CAST


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