開演時間になると、いきなり当劇場ディレクター Kasper Holtenが登場。まじですか。でも「Nothing scerious」というので一安心。「Jonas Kaufmannは歌うのだが、風邪をひいてて、よくなってきてるのだが、そのことを私に伝えて欲しいというので」言い訳か!!!ディレクターまで使って。。。
幕があがる。森の雪原にS字カーブを描いた道を歩いてきて、狩りをし、銃を撃ち、去っていく。ベージュのロングコートだが、このワンシーンだけで、姫だあ、と思える出来のAnja Harteros。
続いて、黒っぽいかぼちゃパンツにストッキングの背の高い男が登場。なんかうだうだいってると、また姫がきて、切り株に上着をのせて座らせて、焚き火に火をともす。自分はスペインからの使者で、王子の肖像の入った赤い写真入れを渡す。あら、あなたね!
ところが、空気のよめない小姓が姫様にずっとお仕えしたい、女王様になるのだから!と、姫は王子でない王の后になることを、一瞬悩んだが、承諾。王子、落胆。
で、Harterosの横でなんかつぶやいてた人は誰?
Jonas Kaufmannですね。私がミュンヘンを去った後に急に有名になった。私も一度みたが別によかった記憶ない。ラテン入ったワイルドな顔に哀愁があるのがいいらしい。たしかに好みではないが、華がある。
で、肝心の歌はというと、9割くらい手を抜いていて、高音の張り上げるところはいいのだが、それ以外はろくに聞こえない。今日は調子よくないらしいが、だいたいいつも調子が悪くて、ドイツでサッカーの開会式で歌った時はなんと口パクで、ものすごい批判をくらってた。
本人、喉を大切にすることを重視しているのだろう。すべての音符を完璧に美しく、とかいってるFlorezの真逆を行く。そのくせ、いろいろな役にエントリーしてくる。前回は「トロイ人」のタイトルロールを歌うはずだった。歌えなくて降りたんだろうなあ。。。二人の女を翻弄するあの主人公にはこの華がほしかったが。
さすがに聞こえやしない1幕のアリアの後の拍手はまばらだった。
2幕、雪はするすると後方に片付けられて、大きな金色の墓石が上手側に現れ、修道院。墓石には大きく「カルロス」の文字、王子の祖父カルロス1世、神聖ローマ皇帝。本人が出てきてなんか歌う。
墓石が下手に移動して、親友であるポーザ侯爵ロドリーゴ登場。失恋話しかしないドン・カルロに、フランドルの新教徒を救えともちかける。この二人の合唱のテーマは、オペラ全幕で繰り返しされて、いい。ドン・カルロの声はポーザ(Mariusz Kwiecien)に負けてたが、音楽が非常に丁寧に盛り上げたので、盛大な拍手をもらってた。指揮パパーノのおかげだ。Kaufmannの声がくぐもってるから、バリトン二人の合唱みたいだった。
場面かわって、真っ赤な長椅子に、黒いドレスの女官たちが並んで歌う。女王の小姓が赤いバラを配る。ドレスは自前なのかまちまちだが、一人肩がざっくり網目の着てるデブが無駄に目立ちすぎ。。。一人地味なのが前に出て小姓からバラをたくさん受け取る。エーボリ公女、この歌は特徴的でいいのだが、歌手はまあまあ。
黒いドレスの女王がやってくると、ロドリーゴもやってきて、手紙を渡し、ドン・カルロに会って欲しいと。その話を立ち聞きしたエーボリは、ドン・カルロが自分に恋していると勘違い。エーボリはキャラが濃いから歌がうまくないとイタイだけだよなあ(Beatrice Uria-Monzon)。ウィーンで見た時はNadja Michaelで非常によかった。
ロドリーゴが女官たちを遠ざけ、自分も退場すると、ドン・カルロが現れる。最初は王からフランドル行きの許可をもらってくれと頼んでいただけだが、恋バナになり、抱きしめようとすると、拒絶され、去る。不倫はしないと言い切る女王は気高く、さすがHarteros。彼女の声もくぐもってるが、この役とデズデーモナは当たり役。
そこへ王が現れ、女王と一緒にいるはずの女官は誰かと。一人が名乗り出ると、フランスへ帰れと。こえー。女王は、あなたをここから消し去ることはできても、私の心から消し去ることはできない、と。状もこえー。
女王が去ると、王はロドリーゴにフランドルのことを聞く。ポーザが意見すると、不機嫌そうだったが、お前は信頼できる奴だといい、王妃と王子のことを探れと。お前も政治より色恋か。
休憩のち3幕。ポプラの居並ぶ、暗い庭。黒い壁に四角い明かり取りが開いている。2幕ではここが赤かった。ドン・カルロが黒い布で顔を隠した女性と逢い引き。女王だと思って愛を囁くと、エーボリだった。その時のうろたえぶりがちょっとらぶりー。
エーボリは彼の気をひくため、ロドリーゴを信じるなと、王と通じているからと。王子が人違いしたと打ち明けると、エーボリは彼が愛していたのは女王だと気づいて怒る。そこへロドリーゴがやってきて、三人で言い合い。王子に密書を渡せといって、受け取る。ここの合唱でも無名の二人に負けてたKaufmann。
場面かわって、大合唱。とんがり帽子に炎のマークのへんな服を着た異端児たちが引き立てられてくる。王が処刑を宣言する。女王は真っ赤なドレス。ドン・カルロがフランドルの使者たちとやってきて、なんか言って、剣を抜く。それをロドリーゴが取り上げたので、王は彼に公爵の地位を授ける。
ここは合唱が壮観でよかったー。短くてテンポもいいし。ロドリーゴは誠実そうでいいが、邪悪にも見えた方が盛り上がる。Keenlysideで見ようとしたミュンヘンではキャンセルくらった。彼は今はパパゲーノなので。ロンドン的にはどっちもオファー出したのでは?
休憩のち4幕、王の居室。金の塔みたいな飾りの前で王が頭を抱えて嘆いている。王妃からも実の息子からも愛されずに年老いていく。。。見たかったバスのFerruccio Furlanetto、さすが。
盲目の宗教裁判所長が手をひかれてやってきて、王の告白をきく。宗教家と思いきや、ドン・カルロも殺せ、主犯ロドリーゴも殺せと。王は聞かなかったことにすると、帰ってもらう。
白いネグリジェ姿の女王が駆け込んでくる。宝石箱が盗まれた!王は、宝石箱ならここにある。と、そこには赤い写真入れの王子の肖像画。申し開きはあるかと言われて、逆ギレする女王。そして失神。それをみたエーボリは、女王の気高い心を傷つけたと、目を覚ました女王に懺悔する。宝石箱は私が盗みました。言うことはまだあると言われて、まだあるの!?それを指示したのは王本人、と傷口に塩を塗るエーボリ。女王は、明日から来なくていいと言い放ち、国を出るか、尼寺に行けと。こえー。
5幕、牢獄は背を向けた兵士が居並ぶことで表現されていた。しゃがみ込んでうなだれているドン・カルロ。ロドリーゴがきて、お別れだと、自分が罪をきて死ぬので、後を頼むと。女王が修道院で待っていると。追っ手がきて、バンと撃たれて死んでもうた。ここはロドリーゴの見せ場。
なぜドン・カルロが脱獄できたか謎だが、修道院の墓石の前にたたずみ、なんかつぶやいている(Kaufmann的にささやくように歌っている)。女王がやってきて(また黒いドレス、衣装いいから、もう一着みたかった)、息子よ、と慰める。息子っていうな!とか相変わらずのヘタレぶり。
王たちが着たので、ドン・カルロは剣を振りかざすも、ざっくり殺されて死亡。祖父が出てきてなんか歌う。墓に引きずり込む、とかはなかった。
シラーの戯曲は違うのだろうが、ヴェルディ版は後半の展開が謎。それでも合唱を多用した大作は、ヴェルディのベストだと言う人もいるらしい。椿姫、アイーダ、リゴレットには遠く及ばないと思うが。ポーザとエーボリの出来がいいとまた違ってくるかも。今日は爺三人(王、祖父、宗教裁判所長)がよかった。
演出もよかった。Nicholas Hytnerはミュンヘンの「ドンジョバンニ」と同じ人。あれも赤が印象的な舞台だった。Royal National Theatre芸術監督。