2019.6.7: Bellini "Norma"

Loy演出、去年の作品。演出が崩れる前にどうしても見たくて、ポルトガル出張の後に詰め込んだ。

音楽はもやっと始まったが、幕があがると血を流す遺体がひしめいている。スーツ姿の男がきて、黒い服の女を抱き起こす。それがノルマ。

このシーンが絵的に美しすぎて、また開始3秒で泣いてしまった。黒っぽい木で囲われただけのシンプルな舞台。

幕がいったん下り、あがると遺体はなくなって数脚の椅子だけが倒れている。奥のドアが開いて灰色のスーツ姿の男たちが数人入ってくる。木箱を開けて本を取り出すと、本の間に拳銃が隠されている。

みなが去った後、黒ブーツのテノールが別のテノールと話す。ローマの将軍ポリオーネとその友人フラーヴィオ。若い女を好きになってしまった、お前やばいぞと言われ、黒ブーツが相手を突き倒して退場。髭で濃い顔の黒ブーツは音程が不安定だがいい声してる。

また幕が下りてあがり、現代衣装の男女がひしめいて合唱。天井には細長い電灯が王冠みたいに組まれた灯りがある。白いワンピースの女が緑の花束を抱えて上手から下手に歩く。

ノルマがきて、ローマとの戦いに向けてみなを鼓舞したのち、一人で椅子をもって一段舞台を下り、ローマの将軍と恋仲になってしまったことを嘆く。合唱隊はストップモーションになっている。黒髪の少年が二人でてきてノルマに抱きつく。

みなが退場した後、白いワンピースのアダルジーザだけが残り、こっちも恋をしてしまったと。その相手の黒ブーツが現れ、いやよいやよもまた逢い引きを約束してしまう。

幕が下りてあがると、天井が低く、追い詰められた感じがする。中央に木の食卓テーブルと椅子があり、少年が二人つっぷしている。ノルマがやってきて、子供たちと手伝いの女クロティルデと一緒に下手寄りの地下室に行かせる。

一人残ったノルマの元に、アダルジーザが相談にやってくる。恋をしてしまったと打ち明けると、その描写に心当たりがあるノルマ。背後のドアがバンと開いて、その相手のポリオーネがやってきた。アダルジーザにばらしてんじゃねえよと逆ギレし、ノルマに子供はどうすんのよと言われ、子持ちであることがばれて、アダルジーザはドン引き。

三人で激しく歌い合って、二人が帰ろうとすると、地下室から子供達が出てきてパパー!と抱きつく。。。歌だけでもすごくて圧倒されてたのに、子供まで絶妙のタイミングで出してきて、、、容赦ないなあ。

休憩のち2幕。

さらに天井が低くなったノルマの家、食卓テーブルは上手端に追いやられ、地下室のある下手側は薄暗くなっている。ノルマが子供達にパンを切って与え、また地下室に行かせる。その後、ナイフを手に取り、子供達は不幸になるだけだから、自分が殺すと地下室の入り口に足をかけて歌う。でもできない。手伝いの女にアダルジーザを呼んでくれと頼む。

アダルジーザが来たので、子供を託すが、逆に自分がポリオーネがノルマの元に戻るよう説得すると言われ、了承する。二人の女は信じ合って重唱。

場面かわって天井も高くなり(電灯はない)、合唱隊が集まっていて、老紳士が鼓舞する。舞台の奥は低くなっていて、合唱隊が消えると、入れ替わりにノルマが出てくる。ローマ討伐しようと。また合唱隊が出てきて、上手寄りに火が灯っている。

そこへポリオーネが連行されてきて、ナイフで殺そうとしたが、ちょっと二人で話をすると幕が下りる。上手から椅子をもう一脚もってきて、二人で話す。自分の元に戻るなら許そう、拒めばアダルジーザとともに生け贄にする。それでもポリオーネは自分を殺せという。縛られていた縄をほどくので、ノルマはみなを呼ぶと幕があがる。

裏切り者の巫女がいる、その名前は誰だ、それは・・・私だ!アダルジーザは下手に出てきていて、顔がはれ、首のあたりから血を流している。ポリオーネはノルマの偉大さに気づき、愛していると言う。ノルマは父である老紳士に子供を託し、最初は拒んでいた父だが、了承する。ノルマは火を手に取り、そこかしこに燃やしていく・・・

最初の場面は。ローマと戦ってノルマだけが生き残ったのが、物語の始まる前なのかこの後なのかわからず、非常に悩ましい。またしばらく口もきけないほどの衝撃で、出待ちもせずにホテルに戻り、速攻でこの感想を書いている。私の他、数人がスタオベしてて、最後はものすごく揃った手拍子だった。

主演のElza van den Heeverは初見。声量はそんなに多くないが、非常に丁寧で、深いところから静かに出すような歌い方がいい。ノルマの感情表現はもうこれ以上ないというほど完璧だった。綿のような黒のシンプルなワンピースで、黒い髪をひっつめ、太い素足をあらわにして歌うのが、いかにも愛されなさそう。アダルジーザは普通のメゾだが悪くない。初演とは違うキャスト。ポリオーネは自己中心的なダメ男の感じがはまってた。

 * * *

寝ても覚めてもこのオペラのことが頭から離れず。冒頭の場面、ノルマを起こしていたのはポリオーネだったのではないかという気がした。仲間の死体があふれる中、自分の手を引いて起こしてくれたローマの将軍・・・これは恋に落ちずにはいられない。10年の歳月、罪の意識にさいなまれても。またポリオーエンの側からしても、生きていたから起こしたのであって、それほどの思い入れがなくてもあたりまえ。

この演出のノルマの姿はかなり醜く、机に飛びのり膝を立ててしゃがみ込み、巨神兵かエヴァというGruberovaにはやらせられない動きなのだが、だからこそ「裏切り者の巫女は私」と言った時の心の美しさが際立つ。やっぱり物語は冒頭のあの3秒で始まっていて、あの時に感じたものは、3時間のドラマできっちりと描かれていた。現代衣装で雄叫びあげてなくてもシャーマンて描けるんだなあ。

最近のLoy演出ベスト:「Das Wunder der Heliane」「Khovanshchina」「I Capuleti e i Montecchi

新作はMadridで「Capriccio」が5.25-6.14にあったのだが、研究会前日の6/2にもあったのだが、指揮がAsher Fischなので断念。こっちを選んだよかったー。

STAFF & CAST


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