座席にはデンマーク語?で60歳祝のカードが置かれている。ステージ上空にもおじさんの顔写真が飾られている。
幕があがると立派なホテルの受付。背後に60の風船が飾られている。太ったヒゲ男Christianが一人、心療内科?からの電話を取り、ここ二年は落ち着いている、父の60歳の誕生日会で、父がオーナーのホテルに来たとか。
細身ハゲの弟Michaelがきて抱き合い、車から荷物をもってこいと、太った妻Metteと口汚く罵り合い、子供三人が背後のピアノに走っていく。支配人Larsが、Michaelの部屋は予約がない、前に問題起こしたからと告げる。Christianが交渉すると鍵が渡された。
妹Helenaがきて、Michaelが姉Lindaの葬式に来なかったことを叱責し、Christianが止めに入る。祖父母がきて、ボケた祖父が孫に色目を使う。兄弟妹の母Elseがきて、その他の招待客もHello,helloと歌いながら続々とやってくる。
父Helge Klingefeldtがやってきて、みなでデンマークの誕生日の歌で迎える。
HelgeがChristianにスピーチで亡くなったLindaのことにふれるよう頼むと、彼はスピーチの準備はできていると答える。ホテルの女中PiaがChristianに声をかけ、風呂に入りたいと、二人で部屋へ。
幕が降りると淡い緑の壁紙、中央の小さいソファーが少しずつ大きくなる。これ映像だった。
三分割の舞台、中央に白いバスタブ。まず左の部屋では三人の子供がベットで飛び上がっていたが、Michaelと妻が祖父に会いに行けと子供を追い出す。
右の部屋でChristianがベットに横になると、女中は上着を脱ぎ、歴代の彼氏と別れたと、風呂には入らず誘惑する。
中央の部屋にはHelenaがホテルの支配人とやってくる。そのバスタブは姉Lindaが自殺したところだった。
Michaelが、靴が荷物にないを騒ぎ、履いてきた茶色の靴ではだめだ、取りに帰れ、一時間以上かかるのに、と妻と喧嘩になるも、妻がドレス姿になると気が変わって抱き合う。
女中がChristianにスカートのホックをはずさせて脱ぐが、Christianにはその気はなさそう。
Helenaが支配人にバスタブに入れと言い、何がみえるかと言って、壁に隠してあったLindaの遺書を発見すると、彼女の亡霊が出てくる。
Michaelと妻がベットで抱き合っていると、子供が戻ってきてMichaelはまたキレている。
また幕が降り、壁紙と、小さなソファー。
幕があがるとレストラン。ホテルの従業員がせわしなく通り過ぎる。着飾った合唱団が並んで歌う。パーティの主役Helgeが短く挨拶して乾杯をし、親戚のトーストマスターHelmutがみなを席につかせる。
細長いテーブルの中央に祖父母、上手にMichaelの妻、Helena、端にChristianが座る。反対側の下手の端にHelgeと妻が座る。Michaelが遅れてくると、Helgeにちゃんとしろと注意される。別の女中MichelleがMichaelに話をしたいと声をかけるが追い払われる。彼が席につくと、スープの味がサーモンか、ロブスターかと言い合いの歌。女中にきいてもわからないと。結局どっちだったんだ?
Christianのスピーチが始まる。二つ用意してきた、青か緑かと聞くと、父は緑を選ぶ。面白い、と言って語りだすと、父はよく昼間から風呂に入っていて、ソファーで自分と双子の妹Lindaをレイプしていたと爆弾発言。
みな絶句するとボケてる祖父が、昔、Helgeにビーチでもてたかったらパンツにじゃがいもを入れろと買って渡した。寒い笑。Christianは上手のドアから立ち去る。HelenaがChristianは時々へんなことを言うと謝る。シェフに説得されてChristianが戻って座る。
ホテルの従業員たちが通り過ぎ、不穏な事態を察して、誰も帰すなと、車の鍵を集める。
黒人男Gbatokaiがきて、外に出ていた今日は貸し切りだ、音楽家は足りている、ジャズはいらない帰れと言う。自分は客だと言うと、Helenaがきて出迎え、彼女の彼氏だった。母もきて、また会えてうれしいと言うが、初対面だと。
黒人男もテーブルに着くと、母がHelenaは社会主義者だが彼氏ができたと紹介するが名前を間違える。Christianが謝りたいとまた話し出すが、また父を非難するので、トーストマスターが、いったん休憩にしようと言う。招待客がみな出ていき、家族はテーブルに座り込み、父は覚えてないと言う。招待客は帰ろうとするが、車の鍵はないしタクシーは捕まらない。
メインは鹿肉、招待客が戻る。Michaelが女中Michelleに引き止められ、不倫した時に妊娠したと言われるが、邪険にして手をあげ、女は床にうずくまる。ここで彼のフラストレーションがたまっていた。
トーストマスターが母にスピーチをさせる。Michaelは頭がおかしいがゲイではないからいい、Christianも妄想の友人がいるなどと言うと、お前が部屋にやってきた時、自分は裸だったが、父に出ていけと言われて出ていったのがお前だと罵られる。Michaelが怒ってChristianを追い出す。また祖父がじゃがいもの話をする。祖母が森でなんとかと美しい歌を歌う。みな感心していたが、またChristianが戻ってきて騒ぐのでワインセラーに閉じ込める。
Michaelはテーブルにあがり、差別的な黒い羊の歌を歌うと、招待客全員が一緒になって歌う。Helenaは逃げ出し、彼氏が追いかけ、女中Piaが薬を渡す。
Congaが始まり、ここで号泣。招待客もみな踊る。狂っている。下手のドアを破って血みどろのChristianがきて、手紙をみつける。
デザートになり、Helenaのスピーチ。誕生日会を穏便にすまそうとしていた彼女だったが、ついに手紙を読み始める。双子の兄Christianは最高だった、毎晩父がくる夢を見て耐えられないので死ぬと、妹Helenaと弟Michaelにはつらい思いをさせてすまないと。するとずっと父に従っていたMichaelが顔色を変える。父は座ったまま、彼女にポルトを注いでやってくれと言う。母も何も言わない。Christianが問いただすと部屋を出ていく。
トーストマスターが、この仕事はつらいと言いながら、隣室でコーヒーだと言う。幕が降り、ソファーが一段と大きくなる。
幕があがると三分割で、中央には緑のソファー、ここだったか。。。下手では客が狂ったように踊り、上手は厨房で、上着を脱いだHelgeが逃げてくる。同じく上着を脱いだMichaelが父を調理台に押し倒し、孫には二度と会えないと言い、殴りつける。台から落ちた父は動かない。シェフが殺されたと言うと、母が甲高い悲鳴を二度あがる。
中央のソファーにChristianが座ると、ソファーからLindaの亡霊が出てくる。
また幕が降り、四人の子供がソファーの上で笑う写真がだんだん大きくなる。また涙。
幕があがると冒頭のホテルの受付。血みどろのChristianが一人。ホテルの従業員と他の客がgood morningと歌いながらくる。少し困ったようにChristianの肩を叩くものもいる。祖父母も何も言わない。Michaelの女の子を連れてHelgeがきて、続いて妻も。生きていたのか。
ホテルの従業員がChristianの荷物を無言で置き、みな帰っていく。あの騒ぎはなかったことにされたのか、Christianの妄想だったのか・・・
終わって速攻でスタオベ。物語、Richard Jonesの演劇的舞台、脚本、音楽、合唱、ソリスト、すべてがぴたりとはまり、Edward Gardnerが完璧に采配していた。これはマスターピースを目撃した。翌日レビューをみると、珍しくGuardian含め、すべてが五つ星。もう一度みたいとチケットを取る。
2回目、よりいい席で、体調もよかったので、細部まで集中して見られた。無駄なセリフが一つもない。後半はずっと泣きっぱなしだった。また私はスタオベ。
終わってまだ震えながら帰ろうとしたら、作曲家のMark-Anthony Turnageが知り合いを探して走り回ってて、脚本家のLee Hallが一人で待ってたので、思いの丈を伝えることができた。プレミエみてまた来たと言ったら喜んでいた。
醜くて悲しいのに、カタルシスがある。ギリシャ悲劇とは違った、現代の露悪。思えば2019年の「Katya Kabanova」も2018年の「Lady Macbeth of Mtsensk」にもLoy演出にもその毛があった。これはアートの新ジャンルとして確立するんじゃなかろうか。不条理な世界に効くのは愛より毒。不条理に立ち向かう勇気よりも不条理そのものの人の心。