現代オペラだし、舞台もエログロが多いから、不安だったのだが。イギリスの有名歌手を集めたキャストはきっといい。演出家(Neil Armfield)は初見。
で、前評判通りの傑作!
舞台はデンマークの宮殿、両側に硝子窓のある白い壁、上手寄りにテーブルが並び、顔を白塗りの合唱団が歌う。先王が死んで、王妃と先王の弟との結婚を祝う。
対照的に、四角い光に照らし出されて、厚手のオーバーを着たハムレット(Allan Clayton)。歌も演技もなかなかいいが、髭の見た目はもうひとつ。ロンドンのマイスタージンガーのDavidでみてた。
最初から透けるドレスで狂ってからは下着にコートのみになったオフィーリアも主役級。現代オペラの悲鳴に似た高音をやらせたらピカイチの Barbara Hannigan、「never never never」と繰り返す旋律が全幕通して要所要所で使われ、耳に残る。狂ってからの王妃Sarah Connollyとの重唱もよかった。
なにより、先王、劇中劇の王、墓堀りと三役で大活躍のJohn Tomlinson!いい使い方してたわ〜
先王が冒頭でしか出てこなかったり、原作の台詞が他のキャストに割り当てられたりはしていたが、原作にかなり忠実に、オペラとして非常にうまく再構成していた。
ハムレットの演技だけでいったらトマ版のSimon Keenlyside にはかなわないけど(DVDでしか見てないけど)、あれは結末がおかしなことになってるから・・・
そして勝因は舞台。1幕の宮殿のあと、硝子戸のついた扉が回転して壁を作り、雨戸を開けると硝子越しに別の物語が展開しているのも見える。王妃の部屋には衣装が並び、そこにオフィーリアの父が隠れているのもうまい。
墓堀りが舞台の奈落に消えた後、一人立ち尽くすハムレットとともに舞台が上空にするするとあがり、下に元の宮殿が現れる。ハムレットにとっては既に宮殿が墓場であったという、秀逸なアナロジー。思えば冒頭にハムレットを照らしていた四角い光はこの墓であった。
欲をいえば、ローゼンクランツとギルデンスターンがただいのゲイ・カウンターテナーの召使い扱いで、イギリスに送られて暗殺されるのを返り討ちにするくだりがないのと、フォーティンブラスが出てこないことが物足りなくもあるが、これは原作が素晴らしすぎるせい。
フェンシングで踊るように戦い、ほぼ全ての登場人物が死んでしまった後、国を救う「光」の存在が。最後に若い高音テノールとか出してもよかったかな。
再演したらまたぜひ見たい。今日と同じキャストで。
指揮者はLPOの首席指揮者Vladimir Jurowski、ロシア人。コンサートで見たことある。あの時はまあまあだったが、今日はよかった。