2013.1.30: 映画「Amour」

いま、ミヒャエル・ハネケ新作「Amour」を遅ればせながら見てきた。前作「The White Ribbon」もめちゃくちゃよかったので、絶対見たいと思っていた。イギリスでは一月にやってたが見逃して、今日の午後一回だけ上映があったので、ちょっくら仕事を後回しにして行ってきた。誰もいないだろうと思ったが、20ー30人くらいいた。

ハネケの描き方は残酷で優しくて、映画の中盤から私はずっと泣いていた。物語が進むにつれ泣くこともできなくなり、終わった後は言葉がでず、息することすらできなかった。日頃、映画のエンドロールが終わるまで立たない主義とか言ってたけど、今日は無音のエンドロールが終わって場内の明かりが灯っても立つことができなかった。

フランス語だが、日本で起こっていることと全く同じ。イギリス人の観客は結構笑っていたけど。人種が違うのだな。

ハネケはオーストリア版の是枝裕和、でも是枝よりもっと残酷で、是枝の生暖かさをそぎ取った感じ。最近はパリでオペラ「ドン・ジョバンニ」の演出もやってたので、それでこの映画に至ったのだろう。めっちゃ暗いドン・ジョバンニだったらしいよー

以下ネタバレ。映画見てから読んでくれ。

言葉での説明は少なく、映像で表現される。物の細かい配置で何が起きているのか全部わかる仕組み。脳卒中で半身不随になった妻に、病院に戻さないと約束してくれと言われ、かいがいしく在宅介護するも、死にたいとか食事中に写真みたいとかより我が儘になっていく妻、疲れて幻影をみる夫。。。それでも献身的に励まして歩く練習をしていた直後、二度目の脳卒中。喋ることもままならなくなり、食べたくないと、飲ませられた水を吐き出す妻を思わず叩いてしまう。ヒゲ剃ってたら、痛い痛いと言い続けるので、手をさすりながら昔話を始めると、泣き止んですやすや寝てる。。。

物語の最初は夫婦でシャンゼリゼ劇場のコンサートに行っていた。客席を長回しするも、主人公たちがどこにいるかわからない。誰にも起こりうるありきたりな物語を示唆か。

そのピアニストは元教え子で、妻が倒れてから挨拶に来て、ためらいながらもどうしたのと問う。後日送られてきたCDには、会えてうれしかったけど悲しかったと書いてあり、音楽を止める妻。ものすごーく細かい!

病院に入れた方がいいんじゃないかと言う娘とそのイギリス人夫。イギリス人のジョークなんか聞きたくねえと妻。ここは笑い。娘も病床で金の話なんかしてるし、思いっきり感化されている。私も気をつけよう。

微妙にキャラが違うが似たようなヘルパーが代わる代わる訪れる。最初は夫が洗面台で頭も洗ってあげていたが、そのうちヘルパーにがしがしシャワーを浴びせられていた。ヘルパーも使うし、医者も定期的に往診してるらしいし、介護ベットも電動車椅子も導入してあって、在宅介護でできうることはやっているようだ。

しかしハネケは介護の悲劇なんかを糾弾する気は毛頭無い。問題は、愛なのだ。夫が妻を愛するあまりに辿り着いてしまう結末。これは、避けるべきもの、避けられるものでは、ない。その明確さが前作と違って大好き。


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